「まちのワークインフラ」で地域を拓く。これからの働き方と生き方-矢野凌祐(京信人材バンク共同代表)

2024.06.24

ニソクノワラジ

多様な働き方を通じて、個人も組織も地域も活性化する。そんな理想の実現に向けて、コミュニティ・バンク京信(京都信用金庫)の矢野凌祐さんは「まちのワークインフラ」づくりに挑戦しています。

矢野さんは現在、地域の企業と人材をつなぎ、正社員や副業・兼業の働き方をサポートするサービス「京信人材バンク」を提供しています。
求職者には個性豊かな企業の副業・兼業人材の求人を紹介し、就職活動を支援する一方、企業には優秀な副業・兼業人材の採用をサポートしています。

さらに、副業や兼業に興味のある人が集まり、地域の企業や多様な働き方を学び、交流する場となるコミュニティ「まちごとオフィス」の運営にも力を注いでいます。

働き方の多様化で「自分らしいキャリアを歩みたい」「仕事と創作活動を両立させたい」といった思いを抱く人は少なくありません。

しかし、どのように一歩を踏み出せばいいのか、悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
矢野さんの取り組みは、そうした「働くこと」や「生きること」への新しい挑戦を後押ししてくれるはずです。地域に根ざしたユニークな視点から、私たちが見失いがちな可能性の扉を開くヒントがありました。

<Profile>

矢野凌祐

京信人材バンク共同代表。2016年に龍谷大学政策学部を卒業。同年、京都信用金庫に入社。2年半は営業店で預金・融資・個人営業などを担当。その後人事部へ異動し、人づくりの研修企画・運営、フレックスタイムや副業解禁はじめ働き方改革プロジェクトの企画、就労インターンシップ制度の企画など、新しいプロジェクトの立ち上げを担当。2020年6月に社内ベンチャー事業として「京信人材バンク」(部署)を創設し、新田廉とともに共同代表に就任。

いきいきと働ける社会の実現には、地域の企業や個人が主体となることが大切

ー矢野さんが取り組まれている京信人材バンクは「地域でつくる、まちのワークインフラ」というコンセプトを掲げています。このビジョンはどこから生まれたのでしょうか。

私たちの目標は、誰もが自分らしく、いきいきと働きチャレンジできる社会を実現することです。でも、それを単に行政や企業に任せるのではなく、地域の企業や個人が主体となって生み出していくことが大切だと考えています。
画一的な制度や価値観に縛られない、その地域に根ざした柔軟な働き方を形成するには、その地域に暮らす一人一人の参画が不可欠なんです。
京信人材バンクは、そうした「まちのワークインフラ」の一翼を担うべく、コミュニティ・バンク京信(京都信用金庫)の社内ベンチャー事業として設立しました。

ー京信人材バンクの設立には矢野さんの原体験が深く関わっているとお聞きしました。

私は大学に通うために、奨学金を400万円ほど借りました。当時は、卒業後に起業や大学院進学に挑戦したいと考えていたのですが、奨学金返済という大きな壁がありました。
家庭の経済状況という、自分ではどうにもできない要因で、社会に出た途端に多額の借金を背負うことになる。やりたいことにチャレンジする機会を奪われる。それって理不尽だな、と感じていたんです。

ー今や約2人に1人の大学生が、奨学金を借りているという統計もあります。

参考元

あしなが育英会

大学生の奨学金事情。約5割の学生が奨学金を利用。「申請したが不採用」の学生も

 https://www.ashinaga.org/media/column/8312/

ええ。私と同じように夢を諦めざるを得ない人が、この社会にたくさんいるかもしれない。それを知った時、この問題になんとか自分なりの答えを出していきたいという思いが芽生えたんです。

企業の価値向上と個人のキャリア形成、その両方を実現したいんです

ー京信人材バンクの事業の柱の1つが、企業と複業人材をつなぐ複業人材シェアサービス「まちのタレントバンク」ですよね。このサービスは、単なる人材紹介ではなく、新しい形のマッチングを目指されているんだな、と感じました。

よくある人材紹介サービスは、スポット採用などで企業の欠員を埋めることが目的となりがちです。しかし私たちは、企業の抱える課題解決と、複業人材のキャリア形成を同時に支援することを大切にしています。

企業の皆さまに検討いただく際には、単なる外注やコンサルへ業務を依頼するのではなく、協働して事業の課題解決や新しい価値創造に取り組むパートナーとして、複業人材を受け入れる意識を持ってもらうことが、マッチングの成否にとって重要です。
一方で、複業人材となる「まちのタレント」の方々とも、しっかりと向き合います。一人一人の個性や強み・弱みを理解した上で、互いが出会うことで化学反応が起こるような企業とのマッチングを図ります。

※編集部注釈
まちのタレントとは?
京信人材バンクに登録いただいている複業人材の総称です。会社員やフリーランスなどの複業人材が登録されており、各分野での経験とスキルを活かして地域社会の活性化を目指しています。主なタレントには、チームビルディング部やゼロイチ企画部、デジタルマーケティング部、社外広報部など、様々な専門分野で活動する人々が含まれています。

詳しくはこちらをご覧ください。

ーなるほど。

こうした丁寧なプロセスを経ることで、企業と複業人材が、お互いの強みを活かし合い、共に成長していける関係性を築くことができます。企業は社外の視点からの課題解決や、イノベーションのきっかけを得られる。複業人材が異なるフィールドで自身の可能性を試し、専門性を高められるんです。

ーそのためには企業と複業人材、双方の理解と協力が不可欠ですよね。

そうなんです。だから、コンサルや外注とは異なる、新しい協働の形を、ともに模索していく必要があるんです。私たちは、そのためのコーディネーターとして、伴走者として、全力を尽くしていきたいです。

ー京信人材バンクのもう一つの軸となっているのが、複業人材コミュニティ「まちごとオフィス」ですよね。

※編集部注釈
まちごとオフィスとは?
「まちごとオフィス」は、京信人材バンクが運営する複業コミュニティで、地域の人々が集まり、自分らしい働き方を追求する場所です。参加者はオンライン・オフラインのイベントやプロジェクトを通じて、まちのタレント(複業実践者)や他の働き手、企業とつながり、キャリアの選択肢を広げることができます。テーマ別部活動などやイベント開催など、会員メンバーの自発的な企画も可能です。まちごとオフィスを通して「自分らしい働き方」へのチャレンジを応援し合い、組織や立場の垣根をこえていく “ワクワクする越活(越境活動)”が当たり前になる社会をめざします。

詳しくはこちらをご覧ください。

ー具体的にどんな方々が参加しているんですか?

会社員、フリーランス、起業家、クリエイターといった実に様々な立場や専門性を持つメンバーが参加しています。普段の仕事では交わることのない人たちが、「複業」という共通点を軸に出会い、刺激し合うことで、新たな気づきや学びが生まれるんです。
参加者の中には、「複業をしたいけれど、何から始めればいいかわからない」という方も少なくありません。「まちごとオフィス」は、そういった「複業の入口」に立つ人たちにとって、心強い存在になっていると思います。

ー「複業してみたい!」と思っていても、失敗が怖くて一歩踏み出せないという方も多いですよね。

まちのタレント(複業人材)の先輩から実体験を学べます。悩みを共有し合ったりできるんです。

ーそういった声が聞けると、失敗が怖いという方でも、一歩を踏み出す勇気が出そうですね。

はい。チャレンジへの不安も、失敗への恐怖心も、仲間がいれば、希望に変わっていく。そんな変化を間近で見られることが「まちごとオフィス」を運営する私たちにとっても、大きなやりがいになっているんですよね。

ーなるほど。ある意味、企業という枠組みを超えた「複業への実験の場」でもあるわけですね。

おっしゃる通りです。「まちごとオフィス」から企業や地域に向けて、ゆるやかに「越境の文化」を発信しています。「まちごとオフィス」を通してチャレンジを実現した人材が、地域の中で新しい働き方の可能性を示していく。企業も開かれて、地域で人づくりをしていく気運に繋がる。そうした好循環が生まれつつあることを、私は嬉しく、また心強く感じています。

今後も「まちごとオフィス」を、多様な人材が集うプラットフォームとして、より豊かなものにしていきたいんです。それが、地域から新しいイノベーションを生み出し、一人一人の可能性を解放する鍵になると信じているんです。

多様なキャリアを歩める環境を、みんなの手で、一緒につくっていきたい

ー矢野さんは、今後の展望として、地域全体を巻き込んだ働き方改革を掲げておられますね。

はい。私たちの目標は、京信人材バンクを通じて、一人一人の可能性が最大限に引き出される地域社会を実現することです。でも、それを京信人材バンクだけの取り組みで成し遂げるのは、正直難しいと感じています。

ーそれはなぜですか?

本当の意味で働き方改革を根付かせるには、地域社会のより広範な層に複業の理解者・実践者を増やしていく必要があります。そのために、私たちは行政や教育機関など、地域のあらゆるステークホルダーとの連携を深めることが必要です。

具体的には、地域内外の自治体や企業と協力して複業の普及啓発イベントを開催したり、「まちごとオフィス」で複業の文化を発信したり。そうした取り組みを通じて、複業をより身近なキャリアの選択肢として、地域に浸透させていく。それが目下の目標ですね。

仕事の選択肢は一つではない、生き方には多様な形があるということを、もっと地域社会に伝えて、根付かせていきたいんです。

ーうーん。そういった地域全体の意識改革は、一朝一夕には難しいかもしれませんね。

だからこそ私は、今はまず一歩一歩着実に、私たちにできることから始めていこうと考えています。

例えば、地元企業に複業人材の活用を促すセミナーを定期開催したり、「まちごとオフィス」を活用して複業について発信したり、そうした地道な取り組みの積み重ねが、いつか地域全体に広がっていくと思っています。

だからこそ、これからも粘り強く、地域の皆さんと対話を重ね、共感の輪を広げていきたい。多様なキャリアを歩める環境を、みんなの手で、一緒につくっていきたいんです。

なによりも、自分らしいキャリアや生き方にチャレンジすることが大切

ー最後に、読者の皆さんへメッセージをお願いします。

私から伝えたいのは、自分らしいキャリアや生き方にチャレンジすることの大切さです。

働き方が多様化しているといっても、世の中には「いい会社に入って出世する」とか「安定を選ぶべき」といった価値観が根強いのが現状です。でも、本当に大事なのは、自分の内面から湧き上がってくる「これがやりたい!」という情熱に、正直に向き合うこと。それを大切にできるかどうかが、人生の充実度を左右するんじゃないか、って思うんですよね。

もちろん、自分の殻を破るのは簡単ではありません。周囲の目を気にして、一歩が踏み出せない。失敗するのが怖くて、新しいことに挑戦できない。誰もが、そんな経験をしたことがあるはずです。

でも、志を同じくする同志と悩みを共有し、支え合う。一人では乗り越えられなかった壁も、仲間と一緒なら乗り越えられる。小さな一歩を、必ず応援してくれる誰かがいる。そのために「まちごとオフィス」があるんです。

複業をはじめとする柔軟な働き方は、人との良い繋がりを運んできてくれます。誰もがその人らしさを発揮しながら、社会と関わっていくための選択肢を広げてくれます。

多様な働き方が根付いた地域からこそ、イノベーションが生まれ、持続可能な未来が拓かれる。京信人材バンクの取り組みが、その未来への一助となることを願っています。

「変わり続ける世の中で、自分らしい人生を歩むってどういうことだろう?」そんな風に思い悩んでいる方は、ぜひ一度、私たちの「まちごとオフィス」のサイトをのぞいてみてください。同じ想いを抱く仲間が見つかるはずです。その新しい出会いが、人生を思いもよらない方向に導いてくれるかもしれません。

【詳しくはこちらから】

京信人材バンク→https://kyoshin-jinzai.jp/

まちごとオフィス→https://www.machigoto-office-community.fants.jp/

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