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有楽町駅から徒歩3分。飲み屋が立ち並ぶその一角に、『ソーシャルバーPORTO』はある。
PORTO(ポルト)は嶋田匠さん、喜屋武悠生さんが2018年6月に立ち上げた、日替わりで店長が変わるバーだ。
PORTOの店長たちは、各々が本業を持ちながら、月に一度、バーテンダーとしてカウンターに立っている。
働く人にとっての「安心してつながれる場」を提供したいと語る嶋田さんと喜屋武さん。
SNSでも簡単に人間関係を補完できるこの時代に、人と人が「場」でつながる意義。そして、働く人が仕事以外にも「拠りどころ」と「役どころ」を持つ価値とはー。
嶋田さんと喜屋武さんの「場」に対する想いを聞いた。
『ソーシャルバーPORTO』
「価値のあるつながりが生まれる場所」「いつでも安心して帰って来られる場所」をコンセプトに嶋田匠さん、喜屋武悠生さんが共同オーナーとして立ち上げる。日替わりで店長が変わるシステムを採用。現在では会社員、フリーランス、歯科医、美容師、外科医など、個性豊かなメンバーが月に1度カウンターに立っている。
「自分の場を持てる人」を増やすことで、「拠りどころ」を確認できる機会を増やしたい、と思って。
ーPORTOは日替わりで店長が変わるソーシャルバーという営業形態ですが、このコンセプトでバーを開こうと思ったのはなぜなのでしょう?
嶋田匠さん(以下敬称略)「人が自分の居場所を感じられる」という状態を、事業を通してつくりたかったんです。僕は居場所には「拠りどころ」と「役どころ」の二種類があると考えています。家族や、学生時代の友人、前職の同僚など、多くの人に「拠りどころ」と呼べるような関係性があったと思います。しかし、週5日フルタイムで仕事をしていると、なかなか直接会って「拠りどころ」を確認する機会が乏しくなってしまう。そしていつの間にか、SNSによって保存されているだけの“点線”の関係性になってしまう。ただ、もしも自分が場を持てていたら、約束も無しにフラッと旧友が立ち寄ってくれて、”点線”になってしまった関係性を”実線”に戻すことができる。そんな「もしも」をハードル低く実現するために、店長日替わりのバーを始めることにしました。
喜屋武悠生さん(以下敬称略)なぜバーという形態になったかというと、僕がもともと、歌舞伎町の路地裏のバーで月に一回店長をやっていたんですね。そこはいい意味でゆるいお店で、空き枠が出たら常連さんが店長になれちゃうようなお店だったんです(笑)そこで月1店長をするようになると、面識のない友人同士でも自分をハブにして横にどんどんつながっていって。そこで生まれる化学反応を目の前で見れるのがすごく面白かった。嶋田とは僕が28歳で初めて就職した際に仕事を通じて知り合ったんですけど、彼にバーの話をしたら「おれもやってみたい!」って反応が返ってきて、最終的に嶋田も月1店長をやることになりました。僕らはバーに立つことで「自分が場になる」という共通の体験をしたんですね。そして、僕には「人のつながりで何かプラスの影響が生まれる場をつくりたい」という想いが、彼には「居場所を感じられる場をつくりたい」という想いが生まれた。それで、ふたりで場をつくるために何かやろうって話になって、バーの経験をもとに、日替わり店長のお店を開くことになりました。
嶋田匠さん(写真左) 喜屋武悠生さん(写真右)
嶋田 普通に働く人たちが、気軽に自分の場を持てるのって、すごく価値のあることだなと思って。そういった場をつくりたかったんです。
喜屋武 店名のPORTOにも「価値のあるつながりが生まれる場所」「いつでも安心して帰って来られる場所」という意味を込めています。
嶋田 二人でどんな場にしていこうか、と考えた時に「価値のあるつながりが生まれる場所」と「いつでも安心して返って来られる場所」この二つのコンセプトが生まれました。そして、この二つを併せ持つイメージが「港(PORTO)」だったんです。
ー本業を持ちながら、月1店長をしている方々にとって「価値のあるつながり」とはどういったものでしょうか?
嶋田 僕は「日常では得られない、日常を変える出会い」のことかなって思っています。ともするとルーティーンになりがちな日常に、新たな変化が生まれるきっかけって、人との出会いだと思うんです。
喜屋武 PORTOのカウンターに立っていると、5年ぶりに会う先輩がふらっと遊びにきてくれたりして、思いがけず再会の機会が生まれることもあります。それも価値のあるつながりの一つですよね。
嶋田 それこそSNSを開く時ってどういう心情なのかな、って考えると、結局はつながりを確認しているんですよね。自分とつながっている人は今、何をやっているのかなーって。その感覚を、もっとリアルに身体性を持たせて提供したいって考えています。
喜屋武 実際に店長の人たちから、「この場をつくってくれてありがとう」って声をもらえたり。
嶋田 自分が帰ってくる場所として、長野から通ってくれている店長もいます。
喜屋武 うん。それだけPORTOが特別な場所になれているのかな、って。
嶋田 会社員にとっての役どころって、そのタイミングで組織から与えられるミッションだったり、マーケットのニーズによって決まりますよね。なので、どこまでいっても外部要因に左右されてしまうんです。マーケットや組織の事情が変われば、求められる役どころも変わっていく。でも、PORTOの1日店長のような複業や、個人の“らしさ”ありきでやっている“小商”はちょっと違う。その人の“らしさ”は、その人であり続ける限り変わらないものです。そして、“小商”だと割り切れば、マーケットなどの外部要因はあまり関係ない。なので、個人の“らしさ”を活かした“小商”を持つことで、役どころを安定的に持つことができると思うんですよね。
喜屋武 会社は与えられた役割に応える場所。それに対して、PORTOはその人ありきで役どころが生まれる場所。会社とはまた別に得られるものがPORTOにはある。PORTOは店長自身の根本的かつ本質的な魅力が受け入れられる場なんです。
嶋田 そうそう。doの価値を認めてもらえる場は結構あるけど、beの価値を認めてもらえる場ってあんまりないんですよね。だからこそ、店長もお客さんも安心してつながることができるのかなって。
僕たちの「顧客」はお店に立ってくれる店長です。彼らがどれだけ自分の場を気軽に持てて、お店に立つことを楽しめるか。それがこの事業の価値だと考えています。
ーパラレルワーカーの方々が店長として店を切り盛しているからこそ、運営側として工夫していることはありますか?
嶋田 人が場を持つことのハードルって、お金だったり、モノだったり、時間だったり、色々あると思うんです。いかにハードル低く、店長の人たちが場を持てるか。それを運営の指針として考えています。僕たちの「顧客」はお客さんではなく、お店に立ってくれる店長と置いています。店長たちがどれだけ気軽に自分の場を持てて、お店に立つことを楽しめるか。それがこの事業の価値です。特に時間という面でのハードルが高いと考えたので、立ってもらう頻度を月に一度にすることで、フルタイムで働いている方でも継続的に関われる形にしています。
喜屋武 あとは、飲食の経験がない人も多いので、レギュラーメニューでは、シンプルなレシピのものしか置いていません。仕入れもこちらが担っているので、飲食のノウハウがなくても気軽にはじめることができます。店長の方にやってもらうのは、集客と当日の接客、あとはオープンとクローズの作業くらいですね。
ー店長の方々に大切にしてもらっていることはどんなことでしょう?
喜屋武 オープンでフラットなコミュニケーションを取ってほしいと思っています。やっぱり友人づてでお客さんが集まるお店なので、ともすると内輪感が出やすいんですよね。なので、自分の知り合い以外のお客さんが来ても、ちゃんとウェルカムな雰囲気で迎えられる、そういった方にお願いしたいと思っています。
嶋田 今、ちょうど店長の募集をしているんですけど、僕たちとしてはスキル面、マインド面、キャラ面という三つの観点を軸にして、面談などを行なっています。まずスキル面は他己紹介が上手な方。その人の持つ個性に興味を持って、引き出し、適切にその人を紹介できるか。具体的には、その人のやりたいことや好きなこと、得意なことなどをハッシュタグとして言語化し、マッチしそうな人とうまくつなげられるか。要するに他者への関心と、プレゼンテーションですね。
喜屋武 マインド面は、マウントを取ったり、人と自分を比べて見下したりしない人。フラットなコミュニケーションを取れる方ですね。
嶋田 キャラ面は単純に人として面白いかどうかですね(笑)常連さんや他の店長にこの人好きだな、面白いな、って思ってもらえる方。
喜屋武 日替わり店長のお店は増えてきているので、PORTOのコンセプトや雰囲気に魅力を感じて、「PORTOで店長をやりたい!」と言ってくれる方が応募してきてくれたら嬉しいですね。
ーこれからPORTOで店長を始めてみたい方は、まずどうすればいいでしょうか?
嶋田 最近は、『店長体験ナイト』というイベントを定期的に開催していて。最初にPORTOの説明をした後に、カウンターの中に実際に立ってもらったり、個別で30分ずつ話を聞かせてもらっています。まずはそれに参加してもらうのがいいかと。
喜屋武 興味がある方は、ぜひ一度PORTOに遊びに来てもらって、ゆっくりお話したいですね。