「三木佳世子」という一人の人間として、自分の名前を掲げた挑戦をしてみたかった。ー三木佳世子(元NHKディレクター/MiraiE PR代表)

2020.06.01

ニソクノワラジ

今や会社員でも副業として、個人で起業できる時代。

今回、取材をした三木佳世子さんは、サイボウズ株式会社に勤務し、さらに母としての顔も持ちながら、個人事業主としてPRプロデュースの活動をするワーキングマザーだ。

本業もあり、しかも母親業もあるなかで、「パラレルキャリア」で起業するという選択。

その選択までに至る一人の女性としての葛藤と決断。そして、パラレルキャリアというもうひとつの居場所ー。

会社員とも、母とも違う、「PRプロデューサー」という顔を持つ意義について、話を伺った。

<Profile>

三木 佳世子

元NHKディレクター

MiraiE PR代表(PRプロデューサー)

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、NHKに入局。「NHKスペシャル」や「クローズアップ現代」等、100本以上の番組を制作し、菊池寛賞・NHK会長賞など受賞。幻冬舎から書籍も出版。産後時短で復職し、仕事と育児の両立に葛藤を抱えるようになり、もやもやワーママたちと朝活コミュニティ「ワーママ解放プロジェクト」立ち上げるなど、模索。天職だと思っていたテレビディレクターの仕事を離れる決意をする。サイボウズ株式会社へ転職し、企業の組織開発、学校向けチームワーク授業を担当しながら、個人で起業。MiraiE PR代表として、PRプロデュースの仕事を始める。現在はPR会社(株)LITA CHO /シニアPRコンサルタントとして活躍中。

メディアでの経験に加え、幼少期より人と話せないというコンプレックスを克服し、AO入試、就職、転職、出版などを成功させた経験をもとに、複業として「自己PR講座」を開講。自己PR・メディアPRをサポートすることで、自分で人生を切り拓く人を増やしたいと活動中。

会社とか家庭の中で、自分の心が煮詰まりそうになったら、違う環境に足を踏み入れてみるのも大事なことだなって。

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ー三木さんは現在、サイボウズ株式会社に勤務しながら、パラレルキャリアとして、PRプロデュースの複業もされています。そもそも、なぜ、働きながら個人でも起業しようと思ったのでしょうか?

私はもともと、12年間、NHKで報道番組のディレクターをしていて、子どもを出産、復職後2年で、サイボウズに転職をしました。本業は充実しているんですけど、サイボウズの仕事の中だけではできないこともあるな、って思ったんです。

それで、「私ってディレクターの仕事のどんなところが好きだったんだろう」って、ディレクターをしていた時のことを思い返してみたんです。そうしたら、人の経験や想いを形にして伝えることで、自分自身に自信を持ってもらったり、ビジネスの手伝いになることが好きだったんだなってことに気がついて。その時に感じていたやりがいを、個人でも形にできたらいいなって思ったんです。そこで、自分のオリジナルの講座を開いて、「こんなサービスをやるよ」って告知してみたら、受けてみたい!って方がいて。それが起業の第一歩でしたね。

ーパラレルキャリアとはいえ、起業することは大きな決断だと思いますが、不安はありませんでしたか?

不安、ありました(笑)だからこそ、個人事業主一本ではなくて、パラレルキャリアとして起業することを選んだんです。個人事業主一本にして、自分の好きなことだけ仕事にしちゃうと、関わる人とかも偏っちゃうなと思ったんですよね。それに会社員だと、自分個人では会えない人に会うことができたり、自分個人だけじゃ挑戦できないことにも挑戦できたりする。でも、個人事業主だけ、ってなると、そういう可能性も狭まっちゃうな、と思ったんです。

ーサイボウズは全面的に社員の複業を認めている会社ですし、サイボウズだけではなく、他のPR会社などにも所属するという働き方も選択もあったと思いますが、なぜ、あえて個人事業主として起業するという道を選んだのでしょうか?

全部一人でやってみたかったんですよね。例えばNHKで働いている時はNHKという肩書、NHKの職員の範疇でやっているという意識があったんです。例えば取材をする時も私個人「三木佳世子」ではなくて、その先にNHKという大きな看板があった。そういう看板を下ろした時に、「三木佳世子」という個人として、私に何ができるんだろう、って思ったんです。

それに、子どもが生まれたのも大きなきっかけでした。子どもが生まれたら、NHKの看板を下ろして地域の人やママ友との関わりができたんです。その集まりで、「カヨちゃんどう思う?」って聞かれた時に、私、何も答えられなくて。自分の意見をフラットに話す、ということにすごい抵抗感があって、個人としての意見をいつの間にか言えなくなっていたんですよね。そこに大きな危機感を感じたんです。だから、あえてPR会社や制作会社の三木さんではなく、「三木佳世子」という一人の人間として、何ができるのか、自分の名前を掲げた挑戦してみたいと思ったんです。

ー三木さんの一人の人間、一人の女性としての葛藤があったからこそ、今のパラレルキャリアにも繋がっているんですね。

NHKディレクターのころは、取材対象者のインタビューを通じて、自分の考えを世の中に発信していたんですけど、「自分の言葉で世の中に発信してもよくない?」って気が付いたんです。

一人ひとりがとても貴重な経験をしていて、それは全部価値があるものなのに、それを価値だと思えないで生きている人がいっぱいいる。だから、私が「それ価値だよー!」っていうのを、私の言葉で言いたい!って思ったんです。

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ー特に世のお母さんは自分を肯定できていなかったり、なかなか自分を認めてあげられない方もたくさんいると思います。

「ママだから〇〇すべき」とか「会社員だから〇〇すべき」とか、今の女性が取り巻く環境には「すべき論」が多いなって感じたんです。その「すべき論」に縛られて、自分の心の声が聞こえなくなっちゃうのはすごく辛いことですよね。今まで男性と同じように働いていたのに、子どもを産んで復職したら職場の中で自分だけ働き方が変化していたり、仕事がやりがいの無いものに感じてしまったり・・・自分を認めてあげられない状態のママもたくさんいるなと思って。それは私も子どもを産んで、当事者になって感じた辛さだったので、「私は一体どうしたいんだろう?」っていう問いが生まれたんです。そこで外部の研修に参加した時に同じような問題意識を持つお母さんたちと出会って、今も続いている朝活プロジェクトに繋がりました。

ーお子さんを育てながら起業するのはハードですよね。お子さんの年齢的にもまだ手がかかる時期だと思います。

最初はイヤイヤ期と戦いながら活動していました(笑)それこそ、「ママが子どもを見ていなきゃかわいそう」みたいな「すべき論」には縛られないぞ!っていう強い想いがあったんです。子どもと向き合う時には、しっかりと100パーセント向き合うようにして、育児と活動の時間をきっちり区切るようにしていましたね。子どもは鋭いので、遊んでいる時に、うわの空だったり、心ここにあらず状態だったりするとすぐに見抜かれちゃうんです(笑)時間を区切って100パーセント子どもと向き合った方がみんな幸せだし、子どもにもちゃんと伝わるんだなって気が付いたんです。

それに、絶対自分だけが子どもを見なきゃならないわけじゃないと思って。ファミサポさんや、シッターさんだったり、夫だったり、他の家族だったり、色々な大人の手を借りて育てる方が子どもにいい影響があるな、と思いました。

ーパラレルキャリアで起業をしてから、子どもとの接し方にも変化はありましたか?

変わりましたね。育休中の一年間って、それこそずーーっと子どもと一緒ですし、自分の時間が全然ないので、自分を見失いがちになっていました。だから、パラレルキャリアで自分の活動している今の方が「いいお母さん」のような気がしますね(笑)

というのも、子どもとのいい関係って、関わっている時間じゃないな、と思って。今の方が子どもといい距離感で接せれるし、子どもの話もしっかり聞ける。心に余裕があるから、子どものこともちゃんと面白がれているなって思います。

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ーパラレルキャリアは、三木さんにとってサイボウズや家庭とも別の「居場所」を担っているんですね。

パラレルキャリアの存在はめちゃめちゃ大きいですね。本業だとまだまだできないこともあるし、失敗することもあって、その度に落ち込んだり苦しんだりもするんですけど、そんな時にパラレルキャリアの方に目を向けると、「話を聞いてくださいー!」って、私を求めてくれる人がいる。それは精神的にものすごく支えになっています。本業とはまた別の自分の顔がある、という感じですね。1カ所しか居場所がなくて、そこで否定されたら「私ってなんてダメなんだ・・・」ってなっちゃうけど、複業でも自分を求めてくれる人がいるだけで、「ここにいてもいいんだ」って思える。

これからの時代は関わる世界や場所を自分から増やしていった方がいいと思うんです。私みたいに起業するっていう選択じゃなくても、まずはどこかのコミュニティに入ってみたり、小さな活動からでもいいと思う。会社とか家庭の中で、自分の心が煮詰まりそうになったら、違う環境に足を踏み入れてみるのも大事なことだなって。

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私は自分のリソースを色々なところに活かして生きていたい、って思っているんです。私がサイボウズで使っている特技だったり、長所の部分って、本来自分が持っているリソースのほんの一部分だけかもしれなくて、残りの私の可能性をどうやって使う?って考えた時に、「あ、こういうテーマの講座を開いてみようかな」とか「こんな新しいサービスを作ってみようかな」とか自分のリソースを活かせる場所はまだまだあるな、って思うんですよね。自分のリソースって人生を重ねると増えたりもするし、そのことに気が付いていない人もたくさんいる。私はパラレルキャリアの中で、「あなたの経験は誰かの価値になるんだよ」っていうことを伝えたかったんです。それで、多くの人がまだ知らない自分の強みに気がついて、それが社会に還元されれば世の中はもっと活き活きするし、社会全体がもっと良くなるのになって思うんです。

ーパラレルキャリアを自分でも始めたいと考えている人は、まずはどこからはじめてみるのがいいのでしょう?

まずは自分が考えているサービスが本当に人に喜んでもらえるのか、っていうところからはじめてみる。周りの人からはじめたり、モニターを募ったりして、とりあえずやってみる。あとは同じようなサービスをやっている競合がいるのか調べてみたり、自分のサービスにどんな値段を付けているのか調べてみたり。はじめは収益のことは考えなくてもいいので「自分はどうして生きていたいのか」っていうことを突き詰めて考えてみるのがいいんじゃないでしょうか。最初はブログやSNSで発信してみたり、スキルシェアサービスに登録してみるだけでもいいと思います。とりあえず宣言してみちゃう。

あとは自分が人から褒められたことを思い出して、それをノートに書き出してみるとか、自分は苦もなくできるけど、人から感謝されたことととか。自分の「得意」や「好き」を大事にしてみれば、自分が進む道は見えてくるものだと思います。

https://miki-kayoko.com/

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