これからの時代、幸せの価値基準は”希少性”になる。―青木純也
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ニソクノワラジ
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ニソクノワラジ
今回、インタビューしたのはラッパーの諒太さん。
彼は社会人として本業を持ちながら、関西圏で精力的に活動を行なっている。
「自分の生活の延長線上をリリックにして、ラップにしている」と語る諒太さん。
大学在学中から現在に至るまで、彼の中で起こったリリックへの変化や、等身大の自分ことを書く意味。
言葉を吐き出すラッパーだからこそ生まれる、仕事と自分への葛藤。
社会人ラッパーとしてのリアルを聞いた。
諒太(りょうた)
1993年生まれ。大阪府出身。京都での大学在学時からクルーでラッパーとしての活動を始める。大学卒業後、新卒で会社員に。現在は営業の仕事をしながら、京都などの関西圏で精力的に活動中。12月には初となるソロアルバム『Prove My Knowledge』をリリース予定。
ー諒太さんはリリックはもちろんのこと、バックトラックも自分で作っているんですよね。平日は本業もあるなかで、制作する時間も限られていると思います。どうやってバックトラックも制作しているんですか?
毎日、家で仕事が終わった後に作っていますね。毎日の日課みたいな感じで、家に帰ったらとりあえずスイッチをつけるようにして、10分だけでも機材に触るようにしています。
ーリリックについては、学生時代から社会人になってどのようなテーマで書くようになりましたか?
自分の生活や、仕事のこと、それに自分の存在価値について書くことが多くなりましたね。僕はあんまり器用なタイプじゃないんで、昼間の仕事でもうまくいかないことも多いんですけど、「俺はそれだけじゃないんだ」「ヒップホップが自分の軸であり、顔なんだ」というメッセージを込めるようになりました。
ー諒太さんのリリックは、「ここではないどこか」というテーマを含んでいるな、と感じました。大学の時より、社会人になってからの方が歌詞に向き合うテンションが変わったということでしょうか?
学生の時は、もっと抽象的なリリックだったと思います。でも、社会人になって仕事をするなかで、より具体的に自分と向き合って、自然と自分というものを考えるようになりました。考えざるを得なくなった、という感じかな。
ー諒太さんは大学の時からクルーで活動しておられますが、プロを目指して本格的に活動してみようという気持ちはなかったんでしょうか?
それはなかったですね。
僕はどこまでも普通の人間なんです(笑)大学を卒業したら普通に仕事をしていく、っていう大前提があったんです。その大前提をクリアした上で、音楽を続けていこうと。だから就職先も、関西圏内から離れずに音楽を続けられる会社を選びました。
ー就職しても、諒太さんはヒップホップを続けていこうと思ってたんですね。
ヒップホップがなかったら、僕の人生何もないだろうな、って思っていたんです。自分の誇りとなるものが何もないままになるだろうなって。大学に通っている時からヒップホップが自分の中のアイデンティティとして確立されていたんです。
ー諒太さんはヒップホップのどんなところが面白いと感じたのでしょうか?
音としてかっこいいと思ったのはもちろんですが、ラッパーは自分のことを歌詞にして、それをラップにして吐き出す。そこが面白いなあって思っていました。ここまで自分と向き合って、詞を書くジャンルってそんなにないし、だからこそ社会人になってもやり続けていきたいと思いました。
ー自分と向き合うっていうヒップホップの要素が続けていくヒントになったんですね。
大学の時に自分と向き合っても、正直、バイトのことだったり、授業のことだったり、自分のことについて書くネタが、そんなになかったんですよね。でも就職をして、仕事をするようになったら、「自分とは何か」という問いと向き合うようになった。だから、自分自身を表現するために、ヒップホップを続けることを選んだんです。
ーヒップホップは楽器が弾けない人たちが始めたというルーツもありますよね。自分の言葉を吐き出す媒体として、始めやすいということもあるんでしょうか。
そうですね。他の音楽ジャンルに比べて敷居は低いと思います。ヒップホップには何人かで輪になって即興でラップし合う「サイファー」っていう文化があるんですけど、そこには社会人もいますし、少しでもラップに興味がある人は、まずは勇気を出してそこに参加してみるのもアリだと思います。
ヒップホップって、しっかりとケジメをつけなきゃいけないようなジャンルでもないですし、自分の生活の延長線上をリリックにすれば、普通の社会人のラップにもリアルが宿るんです。
ー生活の延長線上でいうと、ヒップホップは普段から聞いている曲だったり、お気に入りの曲をサンプリングする文化でもありますよね。
それも大きい要素かもしれないですね。普段、自分が生活の中で聴いている音楽をサンプリングして曲にできる、っていうのもヒップホップの面白さだと思います。
ー諒太さんは生活の延長線上を、リリックにする、曲にする、という行為の、どういうところに救われているのでしょうか?
俺にはラップがあるんだっていう切り替えができるところですね。例えばその失敗をリリックにすることもできるので、自分の失敗をヒップホップとして昇華することができるんです。
ー普段、社会に出て働いていると抑圧されることも多いと思いますが、それをリリックにしたりしますか?
ありますあります(笑)
自分を肯定することをヒップホップでは「セルフボースト」って言うんですけど、仕事で大変だったり、しんどいことがあっても、それをリリックにして、ラップにすることで自分を肯定することができるんです。僕は仕事を辞めてしまったら、音楽も連鎖して倒れてしまう気がするんです。
だから、仕事で抑圧されているからこそ、それをリリックにして、自分を肯定することに価値があると思うんです。
ーヒップホップは諒太さんのアイデンティティの保持でもあるんですね。
そうですね。ヒップホップがあるから自分を保てている部分はありますね(笑)リスナーの立場になった時も、他のラッパーの歌詞で自分を肯定してくれていると思うこともありますし。
僕は誰にでも通ずるテーマを書くようにしているんです。僕は社会人になってから、歌詞がソウルフルになったって友達に言われたんですけど、僕はその言葉を歌詞がより、リアリティを帯びたって意味だって解釈したんです。その言葉で、自分の書くリリックの価値に気がつきましたね。
ー自分でも詞を書いてみようかな、って人はどこから始めるのがいいと思いますか?
まずは、最初は身近なこと、等身大の自分のことをテーマにするのがいいんじゃないかと。
例えば、僕の好きなラッパーは、もし、何も書くことが浮かばない時には、「書けないことをテーマに書けばいい」って言っていてるんです。あくまで、生活の延長線上のことを表現してみるのがいいんじゃないかなって。
ー自分の生活の延長線上を書く、ということは社会人にとっても、セラピー的な意義もありそうですね。
普段の生活の鬱憤が溜まっている人や、自己評価が低い人ほど、ラップをやってみたらいいんじゃないか、って思います。
正直、僕も仕事の時とかは自己評価が低いんですよ・・・(笑)ミスしたり、めっちゃ怒られたりしたら「あかんわ俺・・・」ってヘコむこともしょっちゅうあって(笑)でも、その失敗をリリックにしてラップをすれば、自分のことを認めてあげられますし、その失敗もヒップホップで昇華できるんです。
自分の生活の延長線上をラップにするというスタンスは変えずに、僕はもっと、音的にもかっこよくなっていきたい。だからこれからも、働きながら、ヒップホップを続けていくんだと思います。