高田裕也(Spice of life coffee)が「好き」を趣味の範囲でとどめておく理由。

2020.05.25

ニソクノワラジ

Spice of life coffeeを主宰する高田裕也さんは、自分の「好き」を追求するサラリーマンだ。

彼は本業の傍ら、コーヒー自体の美味しさを人々に届ける活動を行なっている。

なぜ、彼はコーヒーを追求するようになったのか。そして、プロにならずに、あえて「趣味」の範囲にとどめている理由とは。

「好き」を追求するサラリーマンの生き方について聞いた。

<Profile>

高田裕也

1980年生まれ。大阪府出身。本業での神戸への単身赴任を機に、コーヒー巡りにハマり、京阪神のコーヒーショップ巡りや、ワークショップに参加し、ドリップコーヒーを勉強。その後、コーヒー豆を自ら焙煎する事ができる『HOOP』と出会い、焙煎を始める。2017年には自作コーヒーブランド「Spice of life coffee」を立ち上げ、コーヒーと映画を繋ぐ自主映画上映会の開催や、自作ドリップパックの販売など、幅広く活動している。

好きなことがあったら、まずは身の丈にあったところから始めてみる。

ー高田さんは焙煎機を個人でもレンタルできる『HOOP』で、コーヒー豆の焙煎をしたり、ご自分でドリップコーヒーを開発して販売したり、コーヒーに関連したイベントを企画したり、本当に幅広く活動されていますよね。そもそも、コーヒーにハマるきっかけはなんだったんですか?

僕の本業は製造に関わる仕事なんですけど、三年くらい前に、東京から神戸に単身赴任したんですね。そうしたら、シフト的に夜勤明けで休みが一日ぽっかり開くことが多くなったんです。神戸で友達を作っても、僕は休みが不定期なのでなかなか合わせることもできないし、何か一人でできる趣味はないかなあ、って探してたんです。それで、「あ、俺、そういえばよくコーヒーを飲んでるなあ」って思ったんですよ。それで、神戸のコーヒーショップ巡りを始めたんです。その時巡り合った一軒に、今まで自分が持っていたコーヒーのイメージが覆されて。それまではコーヒーって喫茶店でおじさんがタバコをふかしながら飲むのが、僕の中のコーヒーのイメージだったんですけど、その時に飲んだコーヒーは紅茶のように香りが華やかだったんです。それがとても僕の中で衝撃的で。ハマるきっかけはあの一杯でしたね。

そのうちに、自宅でもコーヒーを淹れて飲みたくなって、淹れ方をマネするようになったんです。友達に「俺、今、こんなんやってんねん」って話すと、「え!飲んでみたい!」って返ってくることが多くなって。それで友人たちにも振る舞うようになったんです。それからしばらくして、焙煎機をレンタルできる『HOOP』がオープンして、自分でもコーヒー豆を作れるんじゃないか、って新しい興味が湧いたんです。お店のコーヒーを再現しても、100点はそこまでですけど、自分でコーヒー豆を焙煎すれば、自分なりの100点を生み出せるし、もっと貪欲に研究ができる。そうしたら、もっと「飲んでみたい!」という友達も増えてきて、その人たちに向けて、ドリップコーヒーのパックを作るようになったんです

ーコーヒーがどんどん人の輪を広げてくれた、というわけですね。

そうですね。僕は「焙煎士」とか「コーヒー研究家」というような肩書きがあるわけじゃないし、明確な目標があるというわけでもないんですけど、コーヒーが起点となって、人やコンテンツと繋がってるんです。人と繋がっていくと、どんどん、やりたいことも増えていきますしね(笑)

僕自身、コーヒーを突き詰めたら、どこにたどり着くのか、っていうところに興味があるんです。コーヒーが「好き」という気持ちを貪欲に掘り下げたら一体何に当たるのか。そういう気持ちで活動をしているんですけど、そうしたら自然と人と繋がるようになって、色々な経験をさせてもらえるようになりましたね。

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ー本業とSpice of life coffeeでの活動はどう両立されていますか?

休みの日を使って研究していますね。今までゴロゴロしていた時間を、コーヒーの研究に当てています。

ーじゃあ、高田さんの活動にご家族は理解されているんですね。

もう諦めですね(笑)

ー(笑)神戸はコーヒー屋さんの数も多いですし、入れ替わりも激しいと思いますが、どうやって巡っているんでしょう?

仕事終わった後に、回っていますね。行けるタイミングに日程を合わせて、調べて、グーグルマップにピンを打つなど下調べしています。

インスタグラムもやっているんですけど、最近は「こういう駅にこういうお店がある」って調べようと思ってもなかなかうまいこと出てこないですよね。僕のアカウント見てくれたら「#浅煎り」「#なんば」とかハッシュタグをたどってくれたらお店を調べられるようにしています。それも僕の主観的な情報だけじゃなくて、お店の人に取材して、正確な情報を提供できるようにしていますね。

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ーコーヒーを専門にして、独立してみよう、というような気持ちは起こらなかったのですか?

Spice of life coffeeの活動を始めた当初は、一瞬「これで食べて行くのもええんかな」って思ったこともあったんですけど、実際に自分で独立について調べたり、飲食を生業にする方にお話を聞いたりしていると「そんな甘いもんちゃうよ」っていう厳しい言葉をもらったりして。現実的に難しいな、って思うようになったんです。コーヒーが好きだからこそ、真剣に、深く考えなきゃいけないし、投資や準備も考えると難しいなって。それにサラリーマンと並行して活動していた方がやりたいことも好きにできる。もしかしたら、そのうちに独立の道も見えてくるかもしれないけど、今のところは、いったん色々なことをやってみて、コーヒーが飲めるようになる人、コーヒーを好きになってくれる人を一人でも増やしていきたいんです。そのコーヒーが、コンテンツや人と繋いでくれる。自分が思いもしない人との関わりをもたらしてくれるのが、今、自分の中でも大きな面白味になっているので。

ーコーヒーがここまで高田さんと人を繋いでくれるとは思っていませんでしたか?

全く想定していなかったですね。自分で何か活動をしたい!と思った時、やり続けるための理由を持っていた方が持続すると思うんです。僕にとって、「人との繋がり」がやり続けるためのモチベーションでもあり、人から「高田裕也=コーヒー」という目で見てもらえるのも、やり続けてる理由ですね。

ーコーヒーに関わっている時は、家庭とも仕事との時とも違う高田さんの顔があるんですね。

そうです。僕は仕事を理由にやりたいことができなくなると、それがストレスに感じてしまうんです(笑)だから、オンはオン。オフの時はオフてきっちり分けている方なんですけど、Spice of life coffeeの活動に関しては、家庭とも仕事とは別の「高田裕也」という一個人で楽しんでいる、という感覚ですね。

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ー本業を持っている高田さんにも、コーヒーはハマりやすい趣味だったんでしょうか?

ええ。僕にとって、ハマる要素が多かった。そんなにお金がかからない趣味で、自分が手の届く範囲でも始めやすかったのは大きかったですね。

僕はコーヒーの面白さは入れる度に安定しないところだと思っているんです。一つの同じ豆でも、同じタイミング、同じ分量で淹れているのに、味が変わる。みんなにもその違いを味わってもらって、反応をもらうのもまた面白いんですよね。自分が驚いた実体験を、追体験してもらう。それがまた面白くて。僕は、僕自身が本当に美味しいと思ったものを人に伝えたいと思っているんです。僕という個人より、コーヒー自体の面白さが人に届けばいいな、って。

だから、自分が楽しみたいっていう気持ちが第一にあるので、プロになるのは難しいなって思ったところもあるんです。本業という土台は持ちつつ、コーヒー自体の美味しさを追求して、それを広めている僕を人に見てもらった方がやりがいがある。プロフェッショナルという肩書きが付いて、生活のために一生懸命活動しているところを見てもらうより、そっちの方が僕が本来なりたかった像に近いなって。それがいつか仕事になったら最高でしょうけどね(笑)

ー「好き」なことがあったら、まず自分の生活と気持ちのバランスを崩さないのが大切なんですね。

まずは身の丈にあったところから始めるのが重要だと思います。僕の場合は、この活動をやり続けたら、一体どうなるんだろう、っていう実験でもありますし、その中で人との繋がりが生まれたから続けられているんです。

なぜこの活動をやっているかと聞かれたら、一言、自分を満たすため、って答えるかな。

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ー例えば仕事を持っているバンドマンだったら、「音楽のために仕事をしている」とおっしゃる方もいます。高田さんにとってもSpice of life coffeeの活動はそういった「生きがい」につながる部分なのでしょうか。

ひと昔前は、サラリーマンって、そこそこの大学に入って、そこそこの会社に入れば、家族を持って、そこそこの生活を送れて、定年まで勤め上げればそこそこの地位まで行ける。それが普通だったじゃないですか。でも、今の時代はそうじゃないですよね。これだけ色々な生き方があって、多様性があって、家族のあり方がある。そんな時に、「俺、このままでいいんかな」って思ったんですよね。僕自身、レールに乗っていれば大丈夫だろうっていう気持ちもあったし、そうあるべきだろうっていう固定概念もあった。でも、時代に合わせ僕自身の考え方が変わったんです、やっぱりそんな気持ちがあっても、どこかに自分の中でくすぶっている部分があって、「俺って本当に他にやりたいことないんかな?」って思ったんです。

ー「このままでいいかな?」って疑問に思ったのには、何かきっかけがあったんでしょうか?

あるオンラインサロンに参加する機会があって、色々な人の生き方に触れたのがきっかけですね。「俺の人生って、無難だなあ」って思って(笑)普通のサラリーマンであること以外に、他の話のカードを持っていなかったんですよね。だから、サラリーマンでもない一個人として「僕ってなんなんだろう」って思って。そこでたまたま出会ったのがコーヒーだったんです。だから、コーヒーでお金になるわけでもない。だから、なぜこの活動をやっているかと聞かれたら、一言、自分を満たすため、って答えるかな。自分が満足するために、身の丈にあったことをやっていたら、いつのまにか人と繋がって、肩書きになっていたんです。

ーコーヒーの活動が自分のアイデンティティにも繋がった、というわけですね。コーヒーに出会う前「自分ってなんなんだろう」って考えている時より、精神的に満足できているということでしょうか?

全然違いますね。コーヒーに出会う前は答えがなかったし、苦しかった。仕事のストレスもうまく発散できていませんでした。でも今は、自分の好きなことを思う存分できているし、友達にも喜んでもらえている。今の自分が少なからず「間違っていない」と思えるんです。

ーその「間違っていない」とは具体的にどういうことなんでしょう?

無駄な時間を過ごしていない、ということですね。正しい時間とお金を費やしているなって。自分の小遣いの範囲の中で、美味しいコーヒーを人に届けられて、喜んでもらえる。そして、自分が満たされる。それが自分の中で「間違ってない」って思うんです。

だからこれからも、自分が満たされるために、人にコーヒーの美味しさを伝え続けていきたいと思っています。

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