「結婚しなきゃ」に苦しんでいる人や、”世の中の価値観”に縛られている人を解放した...
2021.02.22
幸福論ノオト
2025.09.10
幸福論ノオト

お金があれば幸せになれる──そう信じてきた人は多いでしょう。しかし現実には、資産を持ちながらも生きづらさを抱える人がいます。経済教育の専門家・中村公一さんが語るのは、お金を「奪い合いの道具」から「協力の道具」へと変える新しい幸福論です。
「お金があれば幸せになれる」と、私たちはどこかで信じてきました。しかし現実には、十分な資産を持ちながらも生きづらさを抱える人がいます。なぜ「経済的成功」が、必ずしも幸福と結びつかないのでしょうか。
今回お話を伺ったのは、経済教育の専門家として活動する中村公一さん。26歳まで学生生活を送り、香港での金融業界経験を経て、現在は日本人向けのお金の教育に取り組んでいます。
<Profile>
中村公一
1973年生まれ、埼玉県羽生市出身。2000年から香港に在住し、国際ビジネスに従事。2006年にGlobal Support Limitedを設立し、約8,000名の会員組織を運営後、代表交代。2023年に株式会社GOJO.を設立し、代表取締役社長に就任。
金融と経済教育の専門家として、金融専門職から小・中学生まで幅広い層を対象に年間150回以上の講演を実施。「経世済民」「命の有効活用」「お金の本質を学ぶ」をテーマとし、真の経済教育の普及と健全な社会発展、幸福実現を目指して活動している。
「お金と経済」の正しい知識普及を推進し、「家族で学べるお金の学校」などのYouTubeチャンネルも運営。分かりやすい金融・経済教育の動画を発信している。未来の日本社会のため、子どもたちへの経済教育と「命の有効活用」に力を注ぐ教育活動を展開中。

――中村さんは、もともと中小企業の経営者を中心とした勉強会を開催されていたそうですね。
中村:はい。経営者の方や経営者のお子さん向けの勉強会を開催していました。
――経済的に恵まれた環境にいる方たちということですね。
中村:はい。世間一般から見れば恵まれている方たちです。しかし、お金を持っているがために家族が争ったり、自分の存在価値が分からなくなったりと、不幸になっている方も大勢いるんです。
――お金があることで、かえって不幸になっている。
中村:はい。一方で、今の日本は貧富の格差が広がる中で貧困の連鎖が始まり、お金がなくて不幸になっている方も大勢います。「では、皆が求めるお金とは一体何なのか?」と考え、お金と幸福について学びました。
その中で気づいたのが、日本の若い世代の死因で自殺がトップであるという事実。G7の中でも日本だけです。将来への夢や希望を持てない若者が増えているのは、日本社会への漠然とした不安に加え、社会への帰属意識や当事者意識の欠如、日本人としての自信や誇りを失ってきたことが背景にあるのではないかと感じています。そこで私ができることは、お金の教育だと思ったのです。
――ずばり、お金の本質についてどのようにお考えですか。
中村:貨幣経済において、お金は「愛を伝える道具」だと思うんです。消費の際は、誰かに物やサービスを作っていただき、そこに感謝しながらお金を払います。投資の際は、その会社に社会に良いものを作ってほしい、働く人やお客さんに幸せになってほしいという祈りを込めて行うべきです。
――お金を通じて、人の想いや祈りが伝わるということですね。
中村:そうです。お金は人間の心や愛を伝えてくれるものです。鎌倉時代の裁判官、青砥藤綱の話をご存知ですか?
青砥藤綱は、夜に川へ落とした十文銭を拾うために、松明代五十文を費やしてまで探させ、その理由を「十文が川底で失われれば世の中を巡らず、人々の利益にならないが、五十文は松明屋や飲食店を通じて社会を潤すからだ」と説いたのです。
戦前はこうしたことを小学生のころから学んでいました。「情けは人のためならず」も同じで、誰かに情けをかける行為は、巡り巡って自分に返ってくる。周囲や社会全体の豊かさと個人の豊かさはつながっているんです。本来、経済とは「経世済民」――つまり、世を治め民を救うことを意味し、皆の幸福を考える学問なのです。
――お金の本来の意味を取り戻すために、中村さんが実践しているのが「チャレンジプログラム」だそうですね。具体的にはどのような内容ですか。
中村:香港で、日本人の中学生から高校2年生までを対象にしたプログラムを開催しています。最初のミッションは、一人で香港に来ること。初めての海外旅行や英語が話せない子も多いのですが、全員が達成します。それだけで「自分はできる」という自信がつき、次の挑戦への原動力になるのです。
――大きなチャレンジですね。
中村:はい。人は痛い思いを避けるため、本来持っている力を使わなくなります。プログラムでは最初にノミの話をします。ノミは高く跳べますが、低い蓋をして何度も頭をぶつけると、その高さまでしか跳ばなくなる。蓋を取っても跳ばないのです。そんなノミも、高く跳ぶ仲間を見れば「自分もできる」と跳び出します。このプログラムは、その「高く跳ぶ仲間」になる経験を与えるものです。
実際、おとなしいと思われていた子が、生徒会長に立候補したり、海外留学を希望したりするなど、大きな変化が起きています。一度「できた」という体験は、人生を変えるのです。

――私たちは日常の中で、どうやってお金と幸福の関係を見直せばよいでしょうか。
中村:何事も当たり前と思わず、感謝することから始めるのが大切です。誰かの役に立ち、自分の存在価値を実感できたとき、本当の幸せを感じられます。まずは誰かのためにチャレンジしてみてください。その姿が周囲に勇気を与え、結果的に自分の充実感も高まります。
――現代では多くの人が「個人の生存戦略」としてお金と向き合っていますね。
中村:そうです。学校の家庭科では「家計を守る」「節約する」が中心ですが、節約は誰かの収入を減らし、巡り巡って自分の収入も減らします。社会全体への貢献という視点が必要です。
――最近はFIREも話題です。
中村:FIREは経済的自立と言いつつ、実際は他人に働いてもらって生活する経済的依存とも言えます。早期退職すれば社会との関わりが薄れ、存在価値や幸福から遠ざかる可能性があります。
――資産運用の心構えとして大切なことは何でしょうか。
中村:「お金は絶対に働かない」ということです。働くのは人です。この事実を忘れてはいけません。
――中村さんが目指す社会とは。
中村:日本の幸福度を世界一にし、自殺率を最も低い国にすることです。そのためには、個と全体がつながっていると確信できるお金の教育が必要です。一人ひとりが存在価値に気づき、経済活動を通じて幸福感を高めることが社会全体の貢献になります。
――お金の背景には必ず社会との関わりがあるのですね。
中村:はい。お金を支払うときも受け取るときも、人と人とのつながりがあります。感謝を忘れれば社会は荒みます。教育による小さな気づきから生活が変わり、幸福が広がると信じています。
